慶大ラクロス部アメリカ武者修行

2002/10/19

text/ K. Mitsumoto

 

 

 慶應義塾大学体育会新種目団体ラクロス倶楽部(以下慶大ラクロス部)は2002年9月20日~10月1日の期間でアメリカのメリーランド州バルティモアに海外遠征を行った。ラクロスの聖地バルティモアに試合を目的に大学チームとして遠征するということは数少ない試みであると思う。海外遠征を行うにあたっては非常に大きなハードルがあった。ただ、我々はこのハードルを乗り越えるだけのモティベーションがあった。「全日本選手権で優勝する」という揺るぎない目標があり、それが目標としてあるだけではなくそれへの欲求の強さが故である。そして、海外遠征を通して我々は非常に多くのことを学んだ。
 我々は10日間の滞在の中で、8試合するという普通では考えられないような超過酷スケジュールをとった。なかには2時間のインターバルでDivisionⅠチームとのダブルヘッダーという日もあった。日本の中の学生との試合からは得られない、肉体的にも、精神的にもハードなものを求めて海外に行き、実際にそれを体験することができた。何を体験したかということを挙げると枚挙に暇がないが、試合、練習の見学、クリニックという3つの違ったアプローチから振り返ってみたい。

UMBCのフィールド

vs. NAVY

 

 我々は日本のチームの中でクラブチームも含めて一番長い歴史を持つチームであり、戦術面に関しての蓄積に関しては絶対の自信があり、また、チームの組織力が慶大ラクロス部の強さの原動力になっている。日本の中でおそらく一番高度で緻密な戦術を採用し、それを実行しているという自負を持つ我がチームが、日本国内においてはその部分での劣等を感じたことはなかったが、今回の遠征における試合で、その組織力の劣等を初めて経験した。しかし、それが一番喜びを感じた部分でもあった。これは即席でチームを作り、たいした戦術も持たないまま臨んでくるワールドチャンピオンシップの試合などからも得られない非常に貴重な体験であった。

  NCAAのDivisionⅠチームは非常に多くの細かい戦術パターンを持ちそれをうまく使い分け、また1つのストーリーができている。これはJHUに在籍したときに感じたことだが、彼らはあくまで個別の戦術を練り上げるよりも全体の流れを重視する。日本においては、クリアーは何のシステムで、ライドは何のシステムでなどミクロな部分から組み立てていく。しかし、彼らはゲームというものをマクロに捉え柔軟に後から戦術を組み込んでいく。非常に言葉では伝えづらく、やっていることは同じではと感じるかもしれないが、実はここに大きな違いがあるのである。我々は高度な戦術を目の当たりにし多くのアイディアを得ることができた。

vs. St.Paul

 

vs. Harford

 

 我々は今年来日したJohns Hopkinsの練習を見学する機会にも恵まれた。限られた練習時間の中での集中力と、激しさに皆圧倒させられたようだ。我々が日本で行っている練習との質の違いを各々が感じたということもまた非常に大きな財産だと思っている。試合の経験においてもそうだが、自らが目で確かめ、体感するということは何にも変えられないものであり、この刺激が遠征の目的とは別に副産物的に得られるという意味で海外遠征というものは非常に大きな価値がある。
 皆「外国人はうまい」と言うが、どこがどのようにうまく、うまくなるためにどのような練習をしているのか、実際にその本人に聞き、また彼らのウィークポイントはどこなのかということを知ることは非常に重要なことであると思われる。また日本では「外国人はゴツイよな」この一言で済まされているが、彼らが非常にハードな練習を行い、さらにトレーニングをしているからこその賜物であるということも、他の弱い大学のチームと対戦したことからも学べたのではないだろうか。そういった意味でも米国での一つ一つの試合には非常の大きな意味があった。アメリカと言うラクロス覇権国に行き、受動的でなく能動的に行動する限りにおいては無限に吸収することがあると思う。

vs. Team Toyota
このゲームで初めてBOXラクロスを経験した

 

 さらに、マーク・ミロンゲーリー・ゲイトといった、超スーパースターのクリニックを受けることにより多くの財産を得た。彼らからどのようなことが試合において重要であるかというフィロソフィーを聞き、実際にテクニックを披露してくれた。多くのプレーヤーはラクロスの奥深さを知り、限界がないことを知ったようだ。その現実にショックを受け、むしろその事実を受け入れたくないというような反応すら見られた。また、創部当時、慶大ラクロス部にラクロスを教えてくださった現UMBCのヘッドコーチであるドン・ジマーマンからも多くのメッセージをもらった。彼からはラクロスの技術のことだけでなく、ラクロスを通してのクロス・カルチュラル・イクスペリエンスの重要性を学んだ。そこには何かラクロスの真の原点のようなものを感じた。

 

クリニックにてデモンストレーションを行うマーク・ミロン

 

ゲーリー・ゲイトと

 

NAVYにて


■対戦結果
 vs. チーム 勝敗 スコア
Goucher College × 8-9
Saint Paul High School 22-2
NAVY 7-7
UMBC × 5-12
Rebel Wear Club Team 11-8
Team Toyota / データなし
Harford community College 13-4
Crease Monkey × 7-10
※Team Toyota戦のみBOX LACROSSE形式で対戦

●光本亘佑
1998年 慶應義塾高等学校ラクロス部主将
1999年 U-19世界選手権大会 日本代表選手
2000年 アメリカ メリーランド州 Johns Hopkins University
       男子ラクロス部にスタッフとして在籍
2002年 慶應義塾大学体育会新種目団体ラクロス倶楽部主将

 

 

 

◎From Editors

光本キャプテンはユース年代から海外でのゲームを経験しており、またアメリカへのラクロス留学の経験から「何が違うのか」を肌で感じているようである。彼が挙げた二点についてふれておく。
■体格について
他のスポーツにおいても頻繁に言われるのが、日本人と外国人の体格差。もちろん人種的な違いはあるが、少なくともラクロスにおいてはスポーツを行う為のフィットネス(体力的な)トレーニングを真剣に行っているのかどうかが問題である。光本キャプテンが指摘するように体格差は同じ努力をした上で論じられるべきである。
■戦術について
ゲームは常に変化し、プレーヤーは様々な局面で瞬時に判断を下さなくてはならない。戦術はその変化を意図的に作り出すことができる。どのような戦術を採用するかというよりも全体としてどのように戦術をデザインするかが重要である。様々な考え方があるが、部品を組み合わすのではなく、まず全体像をイメージし、細分化していくのも一つの方法である。

「アメリカと言うラクロス覇権国に行き、受動的でなく能動的に行動する限りにおいては無限に吸収することがあると思う。」 こう語るように、教わるというよりも学びに行くという姿勢を持ち貪欲に知識や技術を吸収しようとするところに慶大ラクロスの強さ、そしてパイオニアとしての使命感を感じた。

 

text/ M. Uchitani