応急処置におけるアイシング

2006/9/28

text/ M. Uchitani

 

 捻挫や打撲などのケガをした時に応急処置の一つとして患部を氷で冷やすよう言われます。氷で冷やすと言うことは簡単なことのようですが、実際にやってみると、よくわからないこともあります。どれくらいの時間冷やせばよいのか?何回位冷やせばよいのか?どのような氷を使えばよいのか?いつまで冷やせばよいのか?一口に「アイシング」と言っても冷やす方法には種類があり、冷やす目的によって違ってきます。今回は応急処置におけるアイシングについて考えます。

応急処置の場面ではアイシングそのものが単独で行われることはなくRICE(安静、冷却、圧迫、挙上)の一つとして行われます(時には固定も必要な場合がある)。

○応急処置におけるアイシングの効果は?
主な効果としては、以下のようなものが挙げられますが、アイシングにおけるネガティブな効果も報告されていおり、実はまだわかっていないことが多いです。

1)痛みの軽減
 感覚受容器の反応を鈍らせたり、神経の伝達速度を遅らせ結果として痛みを感じにくくさせます。
2)出血を抑える
 血管の収縮と、毛細血管の透過性減少により内出血や血腫を抑えます。
3)代謝レベルの低下
 代謝レベルを下げることによって2次的低酸素症(損傷部位の炎症による周囲の正常な細胞が酸欠状態になり壊死してしまう)を抑制します。

○ケガの評価から
 練習や試合中に選手がケガをしたとき「どんな応急処置をすればよいのか?」を考えます。この処置の一つとしてアイシングがあるのですが、どんなケガにも有効というわけではありません。まずは、そのケガがどのようなケガであるかを評価しなくてはなりません。「ケガの評価」とは、どの部位がどんなケガをしたのか?ケガの程度は?そしてどんな対処をすればよいのか?といったことを総合的に判断することです。この際には、ケガをしたと思われる部位だけみるのではなく、全身に異常がないかどうか?選手の身体を見たり触ったり、あるいは聞いたりして評価します。

○どんなケガに有効か?
 ケガの評価の第1段階として、そのケガが生命にかかわるような重いものであるかどうかみます。呼吸をしていなかったり、意識がなかったりするときは救急車を呼ぶと同時にAEDを手配し心肺蘇生法を施したりすることが優先されます。アイシングを施すのはそのような生死に関わるものではなく、捻挫、打撲、肉離れ、骨折、脱臼等の場合です。骨折や脱臼をした場合においても病院へ行くまで固定をしつつアイシングも施します。

○冷やす時間と冷やさない時間
 アイシングを行う場合、どのくらい冷やせばよいのでしょうか?さらに一度患部から氷を離して次に当てるまで、どれくらいの間隔をあければよいのでしょうか?これには諸説あり、また部位によっても違ってきます。

Mlynarczyk(1984)は10,20,30,45,60分間のアイスパック適用後の3時間における足関節の冷却およびリウォーミングの特徴に関して「リウォーミングの最初の2時間では、10分および20分間適用した場合の足関節の温度は、それより長い3つの適用時間よりも有意に温かかった。45 分間の適用後のリウォーミングは、30,60分間のどちらの適用と比較しても有意差はなかった。」と報告しています。このデータは、足関節のリウォーミングに関する限りは、30分間以上長い時間適用してもそれ以上の利益はないことを示しています。

Knight(1995)は、0℃以上のアイスパックを皮膚に直接適用する場合、足関節のような骨ばった部位には30分、大腿部のような分厚い筋組織の部位には40分間のアイスパックの適用を1~2時間ごとに実施することが有効であると述べています。

とは言え、この時間には個人差もあり、よく用いられるのが「4つのステージ」です。患部に氷をあて続けた時の感覚は、一般的に次の4つのステージで説明されます。

 (1)痛い(ジーンとくる痛み)
 (2)暖かい(短い時間だがポッとする感じ)
 (3)ピリピリする(針でつかれるような感じ)
 (4)感覚がなくなる(冬の寒い日につま先の感覚がなくなるような感じ)

人によってそれぞれの所要時間は違い、すべてのステージを感じるかどうかは定かではありませんが、(4)で感覚がなくなるというのは氷による麻酔が効いた状態で、この状態になったら一旦アイシングをやめます。次に冷やすのを中段した後、再び冷やし始める時期ですが、痛みが戻ってきたらまた冷やし始めます。個人差や部位による違いもありますが、一般的にはこの4つのステージが通り過ぎる時間について20分間がひとつの目安として考えられています。

最近の研究では、Otteら(2002)は大腿部前面の皮下脂肪厚が異なる4つの群(0-10mm、11-20mm、21-30mm、31-40mm)に対して筋温が7℃下がるまでの時間を測定した結果から、以下の冷却適用時間を推奨しています。0-10mm→12分、11-20mm→30分、21-30mm→40分、31-40mm→60分。

以上のことから負傷した部位に"アイスパック"を適用する場合は、足関節のような骨ばった部位には20分程度、大腿部のような分厚い筋組織の部位には30 分程度のアイスパックの適用を約60分ごとに実施することが妥当なラインではないでしょうか?私見です。

○RICEの手順
1.どのようにしてケガが起こったのか?ケガの部位は?どのようなタイプか?など詳細な情報を収集しどのような処置が必要かを判断する(Fig.1)。
2.1でRICE処置が必要と判断した場合、アイスパックを患部及びその周囲に密着させ、エラスティックバンデージ(伸縮性の包帯)を適度に伸ばしつつ巻き圧迫(必要に応じて固定も)する。同時に挙上し20~30分もしくは4つのステージが過ぎるまで安静にする(Fig2,3)。※必要な場合は固定も行う。
3.時折、指先などの受傷部位より末端への血流が阻害されていないかなどを確認する(Fig4)。
4.一度、バンデージとアイスパックを取り除き、患部の状況を確認する(Fig5)。
5.バンデージのみを患部及びその周囲に巻き圧迫するとともに挙上する【60~90分】(Fig.7)。
6.2~5を帰宅もしくは病院へ行くまで繰り返す。移動する際はできるだけ患部を動かさないように固定する。
7.帰宅後(診察を受けた場合は医師の指示に従う)、2~5を繰り返し就寝する際は冷却は一旦やめバンデージによる圧迫と可能な部位なら挙上する。
8.翌朝2~5を行い、病院へ行く。
9.医師の指示に従い、状況に応じてこの過程を24~48時間繰り返す。

Fig.1

Fig.2

Fig.3

Fig.4

Fig.5

Fig.6

Fig.7

 

 

アイスパックの作り方

1.ビニール袋に氷を入れる。冷凍庫の氷の場合、水も少々加える。   

2.袋の中の空気を吸い出す。口を縛る。

3.平らなアイスパックの出来上がり。部位によって大きさや形状を変えることによってより体にフィットすることができる。

※注意
家庭の冷凍庫の氷の場合、0℃以下に温度が下がっている場合があるため、そのまま使うと凍傷の恐れがあります。冷凍庫の氷を使う場合氷と共に水も少し加え、「溶けかかった状態」の氷にする必要があります。

左図はクライオカフというアイテムです。クライオカフは氷水の入ったタンクと患部を包むカフがはースで繋がれており、冷却水が循環し患部を冷却する仕組みになっています。アイスバッグを取り替える手間もかからずバンテージも必要なく冷却と圧迫を効率的に行うことができる便利なアイテムです。

参考文献

・Knight KL.:Cryotherapy in Sport Injury Management. Champaign: Human Kinetics.1995.
・Mlynarczyk JM. Temperature changes during and after ice pack application of 10, 20, 30, 45, and 60 minutes. Terre Haute: Indiana State University; 1984. Masters thesis
・Otte JW, Merrick MA, Ingersoll CD, Cordova ML. Subcutaneous adipose tissue thickness alters cooling time during cryotherapy. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83:1501-1505.
・吉田陽一:「アイシングで感じる4つのステージ」.Training Journal.第10巻10号,P.28-29, 1988.